京かみあん~言葉のはなしをあれこれと~

『誰も知らない京の街は もっと面白い!』

名人の定義とは?

私も親父さんも「名人」とは、まったく縁はないのですが、

時折り、私自身が疑問に思うことがありまして....

ええ、こんな人が「名人?」て。

 

経験したことありません?

「他の誰よりも優れた技や才能を有した方」を指すと思うのですが...

でも、なんか違和感を感じる時、

このレベルで? この程度の難易度で?(私が思う感覚です)

........

 

かって、親父さんと木工の職人さん宅をお訪ねした時、

「この職人さんは、半世紀近くこの製品をこさえてこられた名人

さんだよ!」と親父さんが私に言ってきかせていました。

 

長いこと仕事に従事してきたから「名人」なんでしょうか....?

「誰よりも優れた製品を作り出す」から...「名人」なんでしょ!

...そう思っているのは、私だけでしょうか。

 

親父さんの理解は、こうです。

「名人なんてひとは、本来は無器用で要領の良くない職人さんが

なるもんなんだよ。器用で要領の良いひとは、長く職人には向か

ないのよ。だいたい、すぐにその仕事に飽きて.....辞めてしまう...

器用なひとは、何でも出来るからね。

 

でも、不器用で要領の上手くない職人さんには、その仕事しかな

いのよ....

で、一生懸命その仕事をこなしている間、

仲間の職人さんたちは、一人辞めたり、一人転業したり、また廃

業したりと.....

 

そして、

どんな時も、周りに目もくれずコツコツ仕事をこなしていたら....

いつの間にか、自分の仕事をしている仲間が誰もいなくなってし

まっていた.....。

そう、最後は、自分一人だけ。

『やっている』....。

これが『名人』なんだよ!」

 

「他にするひとがいないんじゃ、どうしようも...ないよね。

このひとしかできないんだから、よ。

こういうひとが、名人なんだよ。

....ただ、見栄えの高い製品をこさえている職人さんは「得」

だよね。

だって、そういう職人さんたちは、素人さんに「凄い!」

と感じさせてしまう....。

他方、精度は高いんだけど、見栄えで....損している製品も

あるんだよ。」

 

「例えばよ....寿司とおにぎり....

どうみたって、

寿司は「高級」てイメージ。

何とか次郎てなお店だと、おそろしい値段だろうよ。

かりにその店で食べられたら、そりゃ「はれ」もするよな。

見栄えが「いいよね!」。

....でも、おにぎりは、寿司ほどに「パッとしない」。

その店でおにぎりと味噌汁を食べたって、そんなに「はれ」し

ないだろう....よ。

でもよ、ふだんから口にしているモノだからこそ「難しい」ん

だよ。握りが緩けりゃ、食べる時「バラバラ」だ。

握りが硬けりゃ、のどにつまっちゃうよな...

塩加減もいい塩梅でなけりゃいけないし、なかの「具」もバラ

ンス良く入ってなきゃよ。

旨ければ、毎日でも来てくれる、少しでも「へん?」だと二度

と来ないよ。

「毎日来させる」てなとこが...

ここが「名人」のなせる技なんだよ。

地味だけどな....。」

 

ところで、

「親父さんは、名人なの?」

「俺か? 

俺は器用だから、名人にはなれないよ。

器用貧乏はピッタンコ! だけど..よ。」

 

....

「でも、親父さんは、やっぱり名人!」だよね。

 

 

2022年1月20日も凄く寒い〜〜